「戸籍証明書等の広域交付制度ってなに?」
「相続手続きで使えるタイミングはいつ?」
2024年3月より施行された「戸籍証明書等の広域交付制度」とは、どのような制度なのか気になる方もいらっしゃることでしょう。
本制度の導入により、戸籍証明書などの取得が安易になり、なおかつ相続手続きがスムーズになるメリットが挙げられます。
この記事では、戸籍証明書等の広域交付制度の概要と、相続手続きで使えるタイミングについて紹介します。
戸籍証明書等の広域交付制度とは
はじめに、戸籍証明書等の広域交付制度の概要と利用者、請求時の必要書類等について紹介します。
本籍地以外の市区町村の窓口でも戸籍謄本が取得可能
本籍地が遠方にある方でも、お住まいや勤務先等の最寄りの市区町村の窓口で戸籍・除籍全部事項証明書(謄本)等を請求して取得することが可能となります。
以前は、本籍地がある市役所や役場へ請求して取得しなければいけませんでしたが(転籍をしている場合は、本籍地があったすべての役場へ)、本制度によって、1か所の市区町村の窓口でまとめて請求することが可能となります。
広域交付制度を利用できる方
広域交付制度を利用できる方は、以下の項目に該当する方です。
- 申請者本人
- 配偶者
- 父母、祖父母等(直系尊属)
- 子、孫等(直系卑属)
法令上、第三者による申請・郵送での申請はできないようになっています。なおかつ兄弟・姉妹、姪・甥、子の配偶者は直系卑属に含まれないため注意しましょう。
広域交付で請求できる証明書
広域交付で請求できる証明書は以下の3点です。
- 戸籍全部事項証明書(戸籍謄本)
- 除籍全部事項証明書(除籍謄本)
- 改製原戸籍謄本
請求時に必要な書類
請求時に必要な書類は、官公庁発行の顔写真付き本人確認書類が必要です。
- 運転免許証
- マイナンバーカード
- パスポート など
保険証や社員証などでは請求できないため注意してください。
戸籍証明書等の広域交付制度のメリット
戸籍証明書等の広域交付制度のメリットは、「籍地の市区町村の役所に行く必要がない」、「相続手続きがスムーズになる」の2点挙げられます。それぞれ一つずつ確認していきましょう。
本籍地の市区町村の役所に行く必要がない
戸籍証明書等の広域交付制度の最大のメリットは、本籍地の市町村に行かなくて済む点です。
例えば、相続などが発生した場合、被相続人(亡くなった方)の除籍謄本などを本籍地まで行って取得しなければいけません。
一般的には、生前中にお住まいだった場所を本籍地とされている方が多いですが、中には本籍地の変更を行っていないまま亡くなるケースや、生まれ育った実家から本籍地を変更していない方もいらっしゃいます。
また婚姻や引越しによって転籍をされている方もいらっしゃることでしょう。
そのため、わざわざ本籍地まで除籍謄本を取得しに行かなければいけない方や、郵送請求して時間がかかる方も多くいらっしゃいました。
しかし戸籍証明書等の広域交付制度では、本籍地以外の市役所などで取得することが可能です。時間だけでなく、交通費などの削減にも繋がるメリットがあります。
相続手続きがスムーズになる
戸籍証明書等の広域交付制度を利用すれば、戸籍謄本や除籍謄本などを最寄りの市役所などで取得することができるため、相続手続きがスムーズになります。
令和6年4月1日より相続登記の義務化が開始されたことに伴い、戸籍謄本などを集める機会が増えます。すぐに取得できる本制度が導入されたことにより、相続登記を円滑に進めることが可能となります。
相続の手続きに必要な謄本
相続手続きに必要な謄本は2種類あります。
被相続人の出生から死亡までの除籍謄本・改製原戸籍謄本
相続では、被相続人の出生から死亡までの除籍謄本・改製原戸籍謄本が必要となり、広域交付制度で請求することが可能です。
除籍謄本とは、結婚・離婚・死亡・転籍などによって誰もいなくなった状態の戸籍謄本のことです。
改製原戸籍謄本(かいせいげんこせきとうほん ※混同を避けるため「はらこせき」と読まれたりします)とは、戸籍謄本の前の様式で、昔の戸籍簿を改正したものです。1994年(平成6年)に戸籍法の改正があり、戸籍が電子データで管理される様になりました。
それ以前の《紙ベース》の戸籍を、改製原戸籍と呼びます。過去の身分情報や離婚、子どもや養子縁組などの情報が明記されています。
2つの謄本は、被相続人と相続人(配偶者や子)の相続関係を証明するために必要です。
相続人全員の現在の戸籍謄本
被相続人との相続関係を証明するためには戸籍謄本が必要です。戸籍謄本には、以下の項目が掲載されています。
【戸籍に掲載されている内容】
- 本籍地
- 氏名
- 性別
- 生年月日
- 戸籍に入った年月日
- 父母・養父母の氏名および続柄(例:長男・長女)
- 他の戸籍から入った人は元の戸籍
被相続人の子どもであれば、続柄に長男、長女と掲載されています。すなわち、戸籍謄本と除籍謄本・改製原戸籍謄本があれば、血縁関係を証明できるということです。(相続手続きには上記以外にもさまざまな書類が必要です)
相続は財産を継承する手続きも多く、本当に相続人であるかを第三者が見極めなければいけません。そのような点においても、戸籍謄本と除籍謄本・改製原戸籍謄本は必要となります。
相続手続きで戸籍謄本が必要となるタイミングとは?
相続手続きで戸籍謄本が必要となるタイミングは主に以下の6項目挙げられます。
- 相続人の調査
- 遺言書の作成
- 相続放棄または限定承認
- 預貯金の払い戻し・証券口座の名義変更
- 不動産の相続登記
- 相続税の申告
それぞれどのような相続手続きなのか確認してみましょう。
相続人の調査
相続人の調査とは、誰が相続人になるのかを調べる作業です。一般的には、配偶者や子どもが相続人に該当しますが、婚外子や養子など、家族が知らない相続人がいるかもしれません。
そのため、戸籍謄本(除籍謄本、改製原戸籍謄本)を取得し、誰が相続人であるのかを調査することから始まります。
遺言書の検認
被相続人が遺言書を残していた場合は、裁判所の検認が必要となり、個人の故人の戸籍謄本(除籍謄本、改製原戸籍謄本)のほか、相続人全員の戸籍謄本を用意しなければいけません。
裁判所のHPでは、検認を以下のように定めています。
「検認」とは、相続人に対し遺言の存在及びその内容を知らせるとともに、遺言書の形状、加除訂正の状態、日付、署名など検認の日現在における遺言書の内容を明確にして遺言書の偽造・変造を防止するための手続です。遺言の有効・無効を判断する手続ではありません。 |
遺言書の検認は相続人に遺言書の内容と存在を知らせ、偽装などを防ぐために用います。
とはいえ、遺言書の検認が必要なのは「自筆証書遺言」で、故人が管理していた場合と、「秘密証書遺言」の場合のみです。
近年では公証人が立会いの元作成する「公正証書遺言」が一般的であり、遺言書の検認は不要です。自筆証書遺言などを見つけた場合は、戸籍謄本が必要となると認識しておきましょう。
相続放棄または限定承認
相続に関する一切の権利を放棄する「相続放棄」を行う場合や、相続した財産の範囲内で債務を弁済する「限定承認」を行う場合、故人の戸籍謄本(除籍謄本、改製原戸籍謄本)と、相続人の戸籍謄本が必要です。
被相続人に多額の負債があると、相続した人は被相続人に変わって返済していかなければいけません。そのような負債の相続を行いたくない場合やトラブルを回避するため相続に関わりたくないなどの場合、相続が発生してから3か月以内に家庭裁判所へ申述しなければいけず、戸籍謄本の提出が求められます。
預貯金の払い戻し・口座の名義変更
被相続人の預貯金の払い戻しや口座の名義変更変更をする際は、故人の戸籍謄本(除籍謄本、改製原戸籍謄本)と、相続人全員の戸籍謄本が必要です。
相続が発生した時は、被相続人が所有している金融機関に死亡した旨を伝え、口座が凍結されます。
凍結した口座を解除するには、預貯金口座を相続する人が遺産分割協議書、または遺言書で、相続人であることを証明しなければいけません。重ねて自身が相続人であることを戸籍謄本などで証明するために用いられます。
不動産の相続登記
不動産を相続した時は、法務局で相続登記を行います。相続登記するためには、遺産分割協議書もしくは遺言書が必要なのはもちろん、故人の戸籍謄本(除籍謄本、改製原戸籍謄本)と、相続人全員の戸籍謄本を提出しなければいけません。
相続税の申告
相続税の申告をする際は、故人の戸籍謄本(除籍謄本、改製原戸籍謄本)と、相続人全員の戸籍謄本が必要です。
その他にも、被相続人の住民票の除票や相続人全員の住民票など身分証明に必要な書類や、相続財産に関する書類、特例や控除に関する書類などさまざまな書類が必要です。
一般的には税理士へ申告のサポートを依頼しますが、戸籍謄本など、自分で書類を用意できれば、税理士費用も安くなる傾向にあります。
戸籍謄本が必要となるケースがある遺産分割手続き
上記の相続手続き以外にも戸籍謄本が必要となるケースがあります。ここでは遺産分割手続きにフォーカスを当て、戸籍謄本が必要となる3つの手続きについて紹介します。
- 特別代理人の選任
- 遺言執行者の選任
- 遺産分割調停
ひとつずつ確認していきましょう。
特別代理人の選任
特別代理人の選任を行う場合は、未成年者または成年被後見人である相続人の戸籍謄本と、親権者または成年後見人の戸籍謄本が必要です。
特別代理人とは、相続人が未成年者である場合の代理人のことです。未成年者の方は法律行為を行うことができないため、相続手続きにおいては代理人が代わりに手続きを行います。
一般的には未成年者の親が代理人となりますが、親も相続人である場合は利益が相反するため代理人になることができません。そのため家庭裁判所に申立てを行い、特別代理人を専任してもらう流れとなります。
遺言執行者の選任
遺言書の内容通りに実行してくれる遺言執行者を家庭裁判所に専任を申立てする場合、被相続人の戸籍謄本(除籍謄本、改製原戸籍謄本)と、申立人の戸籍謄本が必要となります。
遺言執行者とは、単独で遺産相続に係る手続きなどを行う義務や権限を持つ人のことです。遺言で指定する他に、家庭裁判所に申し立てて選任する場合があります。
遺言執行者の選任が必要となるのは、遺言書に「特定遺贈」「子の認知(遺言認知)」「相続廃除(遺言廃除)」についての記載をする場合のみとなるため、必ず選任するということではありません。
しかし相続人同士の関係が悪く、トラブルになる可能性も高い場合は、遺言執行者を決めて手続きするケースも多いです。
遺産分割調停
相続人同士で遺産分割がまとまらない場合は、家庭裁判所に遺産分割調停を申立てて法的手続きを行います。遺産分割調停とは、家庭裁判所の調停で相続人に遺産分割の紛争を解決する方法です。
申立てをするには故人の戸籍謄本(除籍謄本、改製原戸籍謄本)と、相続人全員の戸籍謄本が必要です。
遺産分割調停は時間と労力がかかる作業であるため、戸籍証明書等の広域交付制度が導入されたとしてもできれば避けるようにすることをおすすめします。
法定相続情報証明制度
法定相続情報証明制度とは、被相続人・相続人間の続柄について、法務局所属の登記官による証明を受けられる制度です。
本制度を利用すれば、何度も書類を取り寄せる必要もなくなり、相続税の申告、預貯金の払戻しや名義変更、不動産の相続登記などの手続きがスムーズになります。
戸籍証明書の広域交付制度と併用して利用してみましょう。
法定相続情報証明制度について詳しく知りたい方は「法定相続情報証明制度について」を確認してみてください。
まとめ
戸籍証明書等の広域交付制度の導入により、本籍地の市区町村の役所へ戸籍謄本を請求する必要がなくなり、相続手続きもスムーズになります。
2024年4月より、相続登記が義務化されたこともあり、より相続が身近な存在になりつつあります。そのような点においても、戸籍証明書等の広域交付制度の導入は大きなメリットと言えるでしょう。
本記事では相続手続きの中で戸籍謄本が必要となるタイミングを紹介しましたが、実際は各相続によって必要な手続きは異なります。
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