「みんな遺言書は作っているの?」
「遺言書のメリット・デメリットとは?」
相続の時の備えとなる遺言書ですが、誰しもが作っているものなのか気になる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
また、遺言書を作るうえで理解しておきたいのはメリット・デメリットです。遺言書にはどのような効力があるのかは事前に把握してから作成した方が良いでしょう。
この記事では遺言書の作成件数と、遺言書のメリット・デメリット、注意点を紹介します。
遺言書の作成件数は?
そもそも遺言書の作成件数は年間どれくらいなのでしょうか。ここでは省庁のデータをもとに、作成件数を紹介します。
遺言書の作成数は年間約13万件以上
日本公証人連合会が発表した「令和5年の遺言公正証書作成件数について 」によると、公正証書遺言は令和5年度で118,981件作成されております。自筆証書遺言は法務局の「遺言書保管制度の利用状況」を確認すると、19,336件であったと発表しています。
そのため、1年間で約13万件以上の遺言書が作成されていることがわかります。
一方、厚生労働省が公表した「人口動態統計月報(概数)」を確認すると、令和4年度で1,568,961人が死亡していることから、遺言書の作成率は8.8%程度であることがわかります。
つまり、遺言書の作成を行っている方自体は非常に少ないということです。
遺言書を作りたいと思っている60歳以上の人は3割強いる
遺言書の作成件数は、死亡数に比べると割合は低いですが、作りたいと考えている方はどれくらいいるのでしょうか。
以下の画像の総務省のデータを見ると、60歳以上の方の3割以上は、「遺言書を作成したい」と答えています。
引用:平成29年度総務省調査 「我が国における自筆証書による遺言に係る遺言書の 作成・保管等に関するニーズ調査・分析業務」
上記のデータを見ると、高齢になるにつれて遺言の作成意識が高まっていることがわかります。さらに自筆証書遺言より、公正証書遺言の方を作成したいと考えている方が多いです。
公正証書遺言を作成したい理由は「法律の専門家である公証人が確実に有効な遺言書を作成してくれるから」「保管が確実で、偽造、改ざんなどのおそれがないから」「家庭裁判所による検認の手続の必要がないから」が多いと言われています。
とはいえ、公正証書遺言と言われてもどのような遺言書かがわからない方もいらっしゃることでしょう。次の項では、遺言書の概要について紹介します。
そもそも遺言書とは
ここでは遺言書についてわからないという方に向けて、概要と遺言書の形式、記載できる遺言内容について紹介します。
遺産の分割割合の指定ができる
遺言書は遺産の分割割合を定めることが可能です。「誰にどれくらいの遺産を相続させるか・どの遺産を継承させるか」を決められます。
「自宅を配偶者、長男に現金、次男に不動産」など遺言者の意思を遺言書に記載することで、相続人も円滑に財産を相続することが可能となります。
遺言書の3つの形式
遺言書は「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」の普通方式遺言と命の危機が迫っているなど、特殊な状況下で作成される特別方式遺言に分かれます。
一般的には普通方式遺言が作成されるので、それぞれの特徴を以下の表にまとめました。
自筆証書遺言 | 公正証書遺言 | 秘密証書遺言 | |
作成者 | 本人(自筆) | 公証人 | 本人(代筆でも可能) |
証人の有無 | 不要 | 二人必要 | 二人必要 |
費用 | 無料 | 5,000円以上 | 11,000円 |
遺言の偽造・改ざんの可能性 | 可能性あり(自筆証書遺言書保管制度の場合はなし) | 無し | 低い |
保管方法 |
| 公証役場 | 本人 |
裁判所の検認 | 必要(自筆証書遺言書保管制度の場合は不要) | 不要 | 必要 |
自筆証書遺言は、自身で執筆する方法であるのに対し、公正証書遺言は公証人が二人以上の証人のもと作成します。さらに公証役場で保管してくれるため、相続が発生してから遺言書が見つからないという事態を免れるメリットがあります。
秘密証書遺言とは、遺言者が遺言内容を秘密にしたうえで遺言書を封じ、遺言書の存在だけを公証人に証明してもらう方式の遺言です。紛失や隠匿、破棄のリスクがあるうえ、遺言書のチェックがなく効果が適用される保障がないため、現在では使われるケースは少ないです。
また、自筆証書遺言の場合、裁判所の検認が必要です。検認とは、相続人に対し遺言の存在及びその内容を知らせ、遺言書の形状、加除訂正の状態、日付、署名など、現在における遺言書の内容を明確にして、遺言書の偽造・変造を防止するための手続です。
検認手続きは1か月から2か月前後の期間がかかるため、相続が発生してから10か月以内に申告と納税をしなければいけない相続手続きにおいては、時間が取られる作業です。
そのため、公正証書遺言や、法務局で自筆証書遺言を保管してくれる自筆証書遺言保管制度の利用がおすすめです。
遺言書に書くことができる内容
遺言書は、遺産分割割合の指定ができるほかに、以下の5項目の内容を記載することが可能です。
- 遺言執行者の選定
- 相続人の廃除
- 後見人の指定
- 遺産分割の禁止
- 非嫡出子の認知
ひとつずつ紹介します。
遺言執行者の選定
遺言書の内容通りに相続手続きを行ってくれる遺言執行者を選定することが可能です。ただし、未成年者や破産者は遺言執行者になれません。
遺言執行者を決めておくと、実家等の不動産を売却して換価分割する際の手続きがスムーズになります。
一方で、遺言執行者が不在の状態で遺産分割を行い、共有不動産などにしてしまうと、都度、書類に全員の署名捺印が必要だったり、主導権の取り合い等で相続人同士で揉める場合もあります。
相続人の廃除
被相続人(亡くなった方)が生前中に相続人から嫌がらせなどを行われた場合、被相続人の意志で相続させないようにする「相続人の廃除」が可能です。
ただし、相続人の廃除には、以下のような正当な事由が必要です。
- 被相続人に対し虐待をした
- 被相続人に対し重大な侮辱を加えた
- その他の著しい非行があった(被相続人が相続人に代わり多額の借入を返済するケースや精神的苦痛を受けた場合など)
生前中に上記のような嫌がらせなどを受けていた場合、遺言書に相続人の廃除を記載することが可能です。
後見人の指定
法定相続人が未成年者でかつ親権者が不在となる場合、第三者へ後見人を指定し財産管理を委ねることができ、遺言書に記載することができます。
遺産分割の禁止
遺言書があれば遺産分割を禁止することが可能です。遺言書がない場合は、相続人同士で遺産分割の話し合いを行いますが、トラブルになる可能性も考えられます。
あらかじめ遺言書に遺産分割方法を明記し、遺産分割の禁止を記載すれば、トラブルになる可能性も低くなります。
非嫡出子の認知
遺言書には非嫡出子の認知を記載することが可能です。非嫡出子とは、婚姻関係にない男女の間に生まれた子どものことで、前妻との子どもや愛人との子どもが該当します。
非嫡出子も相続権を得るため、他の相続人とトラブルになる可能性があります。しかし遺言書に非嫡出子への遺産相続の旨を記載しておくことで、故人の意思どおり財産を継承させることもできます。
ただし、非嫡出子がいる時点で他の相続人とのトラブルを100%回避できるとはいいきれません。そのため、法定相続人が最低限財産を相続できる遺留分を検討したうえで、財産の分割割合を決める必要があります。
遺言書をつくるメリット
遺言書を作るメリットは以下の3点挙げられます。
- 自分の意思で遺産の分け方を決められる
- 相続トラブルを予防できる
- 相続手続きの負担を軽減できる
ひとつずつ確認してみましょう。
自分の意思で遺産の分け方を決められる
先程もお伝えした通り、自分の意思で遺産の分け方を決めることができます。遺言は被相続人の意思を尊重した内容であるため、相続人の方はその内容通りに遺産を相続するのが一般的です。
もちろん遺言内容が、特定の方に偏った遺産分割であったり、相続人全員が納得できない場合は、遺言書通りに遺産分割されない可能性もあります。
しかし、多くの方は被相続人の意思を尊重するため、自分の意志通りの遺産分割が可能となります。
相続トラブルを予防できる
遺産分割が決まっていれば、相続トラブルの予防にもつながります。遺言書がない場合、相続人全員で話し合いを行う遺産分割協議にて財産の分割方法を決めます。
いざ財産を目の前にすると相続人同士でトラブルに発展し、収拾がつかない事態にもなりかねませんがあらかじめ遺産分割が決まっていれば、スムーズに相続手続きを行うことができます。
相続手続きの負担を軽減できる
遺言書には遺産分割割合や方法を記載できるため、相続手続きの負担が軽減されます。遺言書がない場合は遺産分割協議を行います。
遺産分割協議は、相続人全員が集まって話し合いを行わなければいけないため、時間を合わせなければいけません。さらに「長男は現金が欲しい、次男も現金が欲しい」と意見がぶつかってしまうと、まとまるまで時間がかかり、相続手続きも進まなくなるでしょう。
あらかじめ遺産分割割合を決めておけば、遺産分割協議が不要となるため、相続手続きも進めやすくなります。
遺言書をつくるデメリット
一方、遺言書をつくるにはデメリットもあります。
- 無効になると逆に争いになる可能性が高い
- 偽造や紛失のリスクがある
- 費用や手間がかかる
メリットだけでなく、デメリットもしっかり確認しましょう。
無効になると逆に争いになる可能性が高い
遺言書は決まった形式に沿って作成しなければ、効力は無効となってしまいます。特に自筆証書遺言の場合、作成日付や署名捺印がないと無効になります。また認知症や高度障害など、意思判断能力がない状態で作成した遺言書も無効です。
しかし、遺言内容が、特定の相続人にとって大きな利益につながる場合、内容自体は有効であっても他の相続人が反対する可能性も考えられます。
さらに、意思能力がある状態で遺言書が作成されたか否かが争いになるケースがあり、遺言書があることで逆に争いになってしまう場合もあります。
偽造や紛失のリスクがある
自筆証書遺言で作成した場合、偽造や紛失のリスクがあります。遺言書を相続人に発見され、納得できない遺言内容であった場合、偽装したりわざと紛失させたりする可能性も考えられます。
もちろん偽装などをすれば、相続欠格者に該当し相続人から除外されることになりますが、誰が偽装したかわからないという問題も考えられるでしょう。
その点を留意して、公正証書遺言などであれば、作成した遺言書は公証人役場で保管されるため、偽装や紛失のリスクはありません。
費用や手間がかかる
自筆証書遺言であれば費用はかかりませんが、公正証書遺言の場合、公証役場へ持参して公証人に作成してもらう必要があるため、5,000円以上の手数料がかかります。
遺言書を作成する際の注意点
遺言書を作成する場合、以下の3点に注意しなければいけません。
- どの種類の遺言書を作成するかを検討する
- 遺産の記入漏れに注意する
- 遺留分の侵害に注意して分割割合を記入する
ひとつずつ紹介します。
どの種類の遺言書を作成するかを検討する
はじめに、どの種類の遺言書を作成するのかを慎重に検討することが大切です。自筆証書遺言はコストをかけずに作成することができますが、偽装や紛失のリスク、検認作業などが必要となります。
一方、公正証書遺言であれば、多少コストがかかってしまうものの、相続人へ確実に遺言書を届けることができます。
相続人の中に、「財産への執着が強く、遺言書の偽装を行いそうだな」という場合や、「遺言書が見つからなかったら困る」という方は、リスクを抑えるためにも公正証書遺言の作成をおすすめします。
遺産の記入漏れに注意する
遺言書を作成する際、遺産の記入漏れがないか、何度もチェックしましょう。記入漏れがあった場合、法定相続人の間で遺産分割協議を行い、その分配方法を決めていきます。
しかし、遺産分割協議がまとまらず、相続人同士でトラブルになる可能性も考えられるため、記入漏れがないように注意してください。
遺留分の侵害に注意して分割割合を記入する
遺言書に記載する遺産分割割合は、遺留分侵害請求に注意しなければいけません。遺留分侵害額請求とは本来取得できる遺産が侵害されて少なくなった場合、侵害額に応じた金銭を取り戻すための請求のことです。
法定相続人(兄弟姉妹を除く)には最低限の財産が取得できる遺留分があります。しかし、遺言書に「特定の人に多く財産を相続させる」と記載されていると、他の相続人は、十分な財産を相続できない場合があります。
相続人の不公平を少しでも解消するためにも、法定相続人には、遺留分を請求できる「遺留分侵害額請求」が認められています。
つまり、相続人の誰かに多く財産を相続させたり、一人だけ少ない相続財産などにすると、遺留分侵害額請求がされ、金銭トラブルにもなりかねません。
そのため、遺留分のついて知見を深めてから分割割合を決めた方が良いでしょう。とはいえ、どのように勉強すればよいかわからない方も多いため、次の項では正しい遺言書を作成するための方法を紹介します。
正しい遺言書を作成するために相続勉強会に参加しよう
正しい遺言書を作成するために相続勉強会に参加することをおすすめします。専門家に相談しながら遺言書を作成してもかまいませんが、最終的に財産の分割方法を決めるのは遺言者です。
そのため、相続に関する知見や正しい遺言書の作成方法を学ぶためにも、相続勉強会に参加しましょう。
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まとめ
遺言書の作成数は年間約13万件以上ですが、死亡者数で比較してみると、全体の8.8%程度です。
しかし遺言書を作成したいという方は3割以上おり、実際に自分の意思で遺産の分け方を決められたり、相続トラブルを予防できたりするなどのメリットがあります。
とはいえ、正しい遺言書を作成しないと効力が発揮しないため、勉強会に参加して遺言書を含めた相続について学ぶようにしましょう。
また自身の年齢的には遺言書は早いと考えている方は、「エンディングノート作成サロン」も開催しておりますので、ぜひご参加ください。