高齢の親と離れた場所で暮らしていると、日々の心配が尽きません。2022年の厚生労働省の調査によれば、65歳以上の高齢者に介護が必要となった原因は、1位「認知症」、2位「脳血管疾患(脳卒中)」、3位「骨折・転倒」です。認知症は家族や周囲の人と疎遠になり、孤立することで悪化する恐れがあります。また、急なケガや病気は、本人や家族が気を付けていても防げません。
当記事では、高齢者を見守るサービスや相談窓口について詳しくご紹介します。離れて暮らす家族の安心安全のため、公的制度や民間サービスを用いて見守り体制を整えましょう。
出典:政府統計の総合窓口「国民生活基礎調査 令和4年国民生活基礎調査 介護」
1. 見守りが必要なときはどこに相談する?頼れる相談窓口を紹介
いざ見守り体制を整えようとしても「費用がどれくらいかかるの?」「本当に必要なサービスなの?」と不安を感じる方も多いでしょう。ここからは、高齢者の見守りについて相談できる窓口を紹介します。高齢者が自宅で生活しているケースと、入院しているケースの2パターン紹介するので、さまざまな事態を想定して備えましょう。
1-1. 親が自宅で生活している場合、地域包括支援センター
地域包括支援センターとは、地域高齢者の困りごと相談ができる窓口です。親の介護を考え始めたときや、元気のない高齢者については、まず地域包括支援センターに相談しましょう。地域包括支援センターの職員は、保健師・ケアマネジャー・社会福祉士といった保健・医療・福祉のプロです。専門家が高齢者の困りごと相談に応じ、必要な制度や機関を紹介してくれる場合もあります。
地域包括支援センターの設置主体は市区町村で、運営している組織は市区町村もしくは自治体から委託された医療法人や社会福祉法人です。民間の法人が運営している場合も、センターの事業は公益性が高く、相談料金が無料です。ただし、紹介を受けたサービスなどを利用するときには、費用が発生することもあります。
地域包括支援センターに相談するときの注意点は、高齢者が住んでいる地区のセンターに問い合わせることです。センターは人口2~3万人の区域に1つあり、担当地区の高齢者について相談を受け付けています。センターの連絡先や担当地区は、自治体の公式サイトや自治体発行のパンフレットなどに掲載されています。
1-2. 親が入院した場合、医療ソーシャルワーカー(MSW)
医療ソーシャルワーカー(以下、MSW)は、入院生活や自宅に戻ったあとの生活について相談に乗ってくれる心強い存在で、病院などの医療機関に所属しています。患者さんによってはMSWについて「次の転院先を見つけてくれた人」や「在宅医療のアドバイスをしてくれた人」という印象があるかもしれません。
MSWは、介護や高齢者福祉サービスについての知識が豊富です。退院後に介護が必要になる場合、介護認定の手続きを説明したり、高齢福祉の関係機関とつなげるのも、MSWの役割です。見守りの問題もMSWに相談すると、解決に向かう可能性があります。
なお、MSWは病院の「相談室」や「地域連携室」といった部署にいます。相談の予約方法や日程は病院ごとに違うため、入院先で確認しましょう。相談料については、ほとんどの医療機関で無料です。
2. 公的な見守り
公的サービスを利用するメリットは、費用が抑えられることです。公的機関も、支援を必要とする高齢者を把握したいと考えているため、気軽に相談しましょう。
2-1. 市区町村独自の見守りサービス
多くの自治体で、市区町村独自の見守り事業を展開しています。自治体独自の見守りサービスは、「緊急通報システム貸与」や「緊急通報サービス」などと呼ばれています。
サービス内容は、緊急通報装置を高齢者に貸し出し、通報があったときには家族などに連絡することです。緊急通報装置の形状は、ペンダント型・据え置き型・携帯電話型など自治体ごとに異なります。
なお、自治体によっては、24時間対応の健康相談や委託業者による緊急時駆け付けなどのサービスを行っているところもあります。費用や見守りサービスの内容詳細は自治体によって差があるため、高齢者が住む市区町村で確認しましょう。
2-2. 社会福祉協議会
地域の社会福祉協議会(以下、社協)でも「見守り相談室」といった相談窓口を設け、見守りが必要な高齢者のもとへ訪問などを行っている場合があります。
社協は、自治体の活動と連携しながら地域福祉を推進する非営利団体です。社協について「災害が起きたときにボランティアセンターができる場所」というイメージを持っている方もいるかもしれません。行政のみでは目の届きにくい福祉課題をカバーし、制度改善に向けて取り組むのが社協の役割と言えます。
なお、社協は市区町村や都道府県に置かれており、どのような見守り活動を行っているかは、各自治体で異なります。高齢者の見守りネットワークを作るため関係機関に連絡したり、社協所属の福祉ワーカーが高齢者のもとへ訪問したりと、積極的に動いてくれる社協もあります。
2-3. 民生委員
民生委員は、厚生労働大臣の委嘱を受けた非常勤の公務員で、地域の中に住みながら住民の困りごと解決に尽力しています。
民生委員になる人は、福祉施設長の経験がある人や元教員、保健師、子ども会の役員といった地域福祉の知識と熱意のある人です。地域住民でありながら、福祉推進の使命感と守秘義務があるため、相談した内容が外部に漏れることはありません。
民生委員は、活動の一環として高齢者の孤立を防ぐための見守りを行っています。民生委員と連絡を取りたいときは、自治体の福祉課や保健課に確認しましょう。
2-4. 介護保険サービス
介護保険サービスは、日常生活に手助けが必要になったとき利用を考えるのがおすすめです。介護保険サービスを利用するには、まず地域包括支援センターや自治体の窓口に問い合わせ、要介護認定を受ける必要があります。認定の結果、要支援または要介護の判定が出れば、介護サービスが利用できます。
高齢者の見守りとして用いられる介護保険サービスは、ホームヘルプサービスや訪問看護、デイサービスです。介護保険サービスは決まった頻度で利用するため、福祉や看護のプロが高齢者の安否を定期的に確認してくれます。
3. 民間の見守りサービス
民間の高齢者見守りサービスとして、警備会社のCMを目にしたことがある方もいるでしょう。他にも、お弁当を届けて高齢者を見守るサービスや、高齢者にとって身近な店が訪問を行ってくれるなど、さまざまな民間事業者が見守り事業に参入しています。
ここからは、民間の見守りサービスについて、宅配型・訪問型・設置型・複合型という4つの形態別に紹介します。
3-1. 宅配型:配食サービス・買い物支援
宅配型の見守りサービスの具体例は、お弁当の配食サービスや買い物支援です。お弁当の配食サービスは、配達業者がお弁当を届けるとき、高齢者の様子を確認します。自治体によっては配食サービスを使う高齢者に助成金が出るため、お得に利用可能です。
買い物支援時の見守りには、食品や日用品を扱う店そのものが配送を行うケースと、民間事業者による買い物代行があります。例えば生協では、商品を届ける際に見守り活動を行っています。具体的なサービス内容は、事前に見守り登録した対象者のもとへ商品を届けるとき対象者の安否を家族へメール送信したり、異常時には救急車の手配を行ったりすることです。
3-2. 訪問型:民間事業者による安否確認
訪問型の安否確認は、郵便局員や新聞の配達員、水道局・ガスの検針員などが担っています。例えば郵便局には、「みまもり訪問サービス」という定額の見守りプランがあります。
郵便局の「みまもり訪問サービス」は、局員が高齢者のもとを月1回訪問し、家族へ写真付きの報告書を送付します。プラン内に入院保障や電話相談も含まれており、郵便局ならではの幅広いサービスが用意されていることが特徴です。
3-3. 設置型:センサー・緊急通報装置
設置型の見守りサービスは、高齢者宅にカメラや人感センサー、緊急通報装置を取り付けます。人感センサーは玄関やトイレなどに設置し、異常があったとき家族へ通知されるしくみです。緊急通報装置は、高齢者自身が緊急ボタンを押すことで、救急車や警備スタッフが急行します。
設置型の見守りサービスは多くの民間事業者から提供されており、料金や機能が事業者によって異なります。センサーと緊急通報装置が一体になったサービスや、スマホアプリと連動しているタイプ、IoT家電を活用した見守りもあり、利便性や操作性からサービスを選ぶことも可能です。
3-4. 複合型:緊急通報装置+駆け付けサービスなど
複合型とは、見守りだけでなく、火災や盗難の被害から高齢者を守るサービスを提供するプランです。複合型の種類は、設置型のセンサー+駆け付けサービス、緊急通報装置+電話健康相談など、提供事業者によってさまざまです。
複合型の見守りサービスは、ホームセキュリティを兼ねているため、災害や犯罪の被害から高齢者を守る役割を果たします。安全性が高い一方で、費用が高額になりやすいなど注意点もあるため、導入の際はサービス内容・費用をよく確認しましょう。
4. 見守りサービスを利用するメリット
見守りサービスで得られるメリットは、高齢者の安全のみではありません。見守りサービスは、広く地域社会の利便性や安全性の向上につながります。ここから解説するのは、見守りサービスを利用することで得られる本人・家族のメリットと、地域社会のメリットです。
4-1. 本人や家族が安心できる
見守りサービスを利用する一番のメリットは、本人や家族が安心できることです。離れて暮らす家族の様子を知る方法が電話やビデオ通話のみだと、時間が取れない方も多いでしょう。高齢者宅にセンサー型の見守り装置を設置すれば、家族は専用アプリなどから高齢者が普段の生活を送っていることを目視でき、本人も家族も負担感なく安全を確認できます。
また、見守りサービスの利用は認知症予防にも効果的です。認知症予防には、他者とのコミュニケーションが効果を発揮すると言われています。見守りサービスの利用によって他者との交流が増えるため、認知機能の維持向上が期待できます。
4-2. 地域での見守り活動の活性化につながる
高齢者の見守りは、地域の社会資源を利用するため、地域全体の見守り活動の活性化につながります。社会資源とは、公的サービス・民間サービスを問わず、支援に活用できる組織・団体・活動・情報などのことです。見守りサービスで利用できる社会資源には、介護や高齢分野の福祉行政・民生委員・配食サービスを行う民間企業・郵便局・新聞販売店などがあります。また、組織や団体だけでなく、高齢者の友人や近隣住民も社会資源の1つです。
支援を必要とする人が、問題を自分たちだけで解決しようとすると、心や体の負担が大きくなります。本人や家族が無理せず、行政の窓口に相談するなど積極的に社会資源を活用することで支援活動が広まり、同じようなサポートが必要な人にも支援の手が届きやすくなります。
まとめ
見守りサービスを利用するときは、高齢者自身が納得できるものを選ぶことが重要です。例えば、カメラ付きの見守り装置は監視されているようで抵抗感のある方もいるでしょう。その場合、人感センサーなら姿が映らないため、安心できる可能性があります。
また、「介護が必要になったときにどうするか」「今からできる準備は何か」と家族で話し合い、認識を共有しておくことも見守り活動の1つです。日頃から家族間のコミュニケーションを取り、高齢者も家族も納得できる形で見守りサービスを導入しましょう。
なお、介護要因の第1位である認知症になると、家族でも財産の管理や処分ができなくなります。万が一の備えとしてエンディングノートで意思を明らかにする方法や、相続の勉強会に参加し不安を払しょくする方法があります。奈良県でエンディングノート作成や相続について勉強したい方は、下記のリンクからお申込みください。