高齢化の影響により、認知症の高齢者は増加しています。2040年には団塊ジュニア世代が65歳以上になり、日本の高齢者人口が最多になる見込みです。厚生労働省の研究班が報告したデータによれば、2040年における認知症高齢者数は584万人を超える推計で、65歳以上の6.7人に1人が認知症の計算になります。また、MCI(認知症予備軍)の高齢者も2040年に約613万人に達する見込みです。
(参考:内閣官房「認知症及び軽度認知症の有病率調査並びに将来推計に関する研究」)
当記事では、認知症の予防法や、認知症を発症したときの対応を紹介します。高齢の親を持つ方や、自分自身の認知症予防を始めたい方は、記事を参考にしましょう。
1 認知症にならないための3つの予防策
認知症には、予防したり発症を遅らせたりする方法があると言われています。ここからは、認知症予防のために今からできる3つの取り組みを紹介します。
1-1 食生活を整え、過度の飲酒・喫煙を控える
バランスのよい食事や規則正しい食事の習慣は、認知症予防に力を発揮します。食生活を整えるポイントは、以下の通りです。
- 和食を中心とした1日3食が基本
- 自分の年齢や体型に合ったエネルギーと栄養素を摂る
- 糖分・塩分・脂質の過剰摂取を控える
- 脂質を摂るならオリーブオイルやナッツ類がおすすめ
- 緑黄色野菜・根菜を食事に取り入れ、ビタミンやミネラルを摂取する
- 豆腐や納豆などの大豆製品はコレステロールや血糖値の低下が期待できる
- 魚の中でも特に青背の魚を食べる
- 緑茶やワインに含まれるポリフェノールを摂取する
- よく噛んで食べる
- 飲酒や喫煙は認知症のリスクを高めるため控える
体によいとされる食べ物には、コレステロール値の調整効果や抗酸化作用が期待できます。ただし、どんな食べ物も過剰に摂取すると不調の原因になるため、適量を守ることが大切です。
なお、飲酒や喫煙は脳の萎縮を引き起こすケースがあり、認知症のリスクが上がる習慣です。認知症を予防したいときは、適量の飲酒や禁煙を心がけましょう。
1-2 散歩など軽い運動を続け、健康を管理する
運動の習慣は、認知症発症の引き金となる生活習慣病を防ぎます。認知症予防を目指した運動で重要なのは、軽めの運動を継続することです。毎日散歩を続けるほうが、週1回の負荷のかかるトレーニングよりも、認知症を発症するリスクの低減に役立ちます。運動習慣のめやすは、1回につき30分以上の運動を週3回からです。以下で、おすすめの運動を紹介します。
- 散歩や通勤時のウォーキング
- ラジオ体操やヨガ
- 自治体や地域で行われる体操教室
- 水泳・スイミング・水中ウォーキング
運動は、頑張りすぎると続かない可能性があるため、無理のない範囲で取り組みやすいものを選びましょう。特にウォーキングや体操は時間を決めて取り組みやすく、高齢者にも負担が少ないため、おすすめです。
1-3 趣味や生きがいで社会との繋がりを持つ
社会との繋がりは、認知症予防や進行防止に効果が期待できます。孤独や不安な気持ちは、認知症が悪化する原因です。他者との適度なコミュニケーションによって脳がよい刺激を受け、認知症の予防や進行防止に繋がります。以下で紹介するのは、社会参加の例です。
- デイサービスの利用
- ボランティアへの参加
- シルバー人材センターに登録
- 習い事を始める
- 映画鑑賞・読書などの趣味を持つ
- 俳句・短歌・自叙伝など創作活動
社会との繋がりは、自治体主催の活動、地域のサロン、SNSなどさまざまです。たくさんの人とかかわるのが苦手な場合、趣味仲間や家族とコミュニケーションを取るだけでも構いません。社会との繋がりは、本人がこれまで行ってきた仕事や活動の延長線上にあるものだと継続しやすくなります。
2 認知症になりやすい人の3つの特徴
認知症は、日頃の生活習慣などによって発症しやすくなる場合があります。ここから紹介するのは、認知症になりやすい人の3つの特徴です。特徴とあわせて改善方法を紹介するため、該当する場合は参考にしましょう。
2-1 生活習慣病の人
高血圧・糖尿病・肥満といった生活習慣病は、認知症の発症や進行に関係があると言われています。例えば脳血管性認知症は、脳梗塞・脳出血などが原因で起こる認知症であり、高血圧の人が発症しやすい傾向です。脳血管疾患は、高齢者に介護が必要となる原因の上位でもあります。認知症を防ぎ、自立した生活を送るには、生活習慣病を防ぐことが大切です。
(参考:厚生労働省e-ヘルスネット「脳血管障害・脳卒中」)
生活習慣病を防ぐためには、塩分・糖分・脂質の摂りすぎに注意し、適度な運動を心がけましょう。栄養バランスを考えた食事メニューを自炊すると、脳にもよい刺激になり、認知症リスクを低減できます。また、定期的な健康診断は認知症予防のために重要です。毎年健診を受ければ、心身の状態を把握でき、万が一認知症になった場合も早期に発見できます。
2-2 アルコール依存症やスマホ依存症の人
アルコール依存症やスマホ依存症の人は、認知症になる可能性があります。
アルコール依存症と認知症
アルコール性認知症の原因は、長きにわたってアルコール分解の負担が積み重なった結果、脳が栄養不足に陥るためです。脳の栄養不足は、認知能力の低下や記憶障害に直結します。また、アルコールが間接的に認知症の原因になる場合もあります。アルコールには利尿作用があるため、体が水分不足になりがちです。大量のアルコールを摂取する習慣によって血流が悪化し、血栓などのリスクが上がります。度重なる飲酒は、脳梗塞や脳出血のリスクを高め、脳血管性認知症を引き起こす原因になります。
スマホ依存症と認知症
スマホ依存症も認知症を引き起こす要因の1つです。スマホから入ってくる情報を処理するため、脳には多くの負荷がかかります。スマホ依存症による脳の疲労は、記憶力・集中力・コミュニケーション力の低下に繋がる危険なサインです。スマホによる物忘れなどの症状は一過性のケースが多いので、スマホと距離を置く、なんでもスマホに頼らない、といった習慣を身に付けることで改善できます。
2-3 ストレスを感じやすい人
ストレスは、認知症を引き起こしたり進行を進めたりする要因になると言われています。認知症とストレスが関係していると言われる理由は、ストレスによって脳への血流が不足することや心身のバランスが崩れるためです。
なお、うつ病の人は認知症を引き起こしやすいという研究結果もあります。気分の落ち込みや不安感がある場合、専門医への相談も方法の1つです。また、家族や友人とコミュニケーションを取ったり気晴らしの趣味に没頭したりして、ストレスを発散しましょう。
3 認知症になったときに進行を遅らせる方法
認知症になっても、本人の生活習慣や周囲の働きかけで進行を遅らせることができます。ここからは、認知症になったとき、進行を遅らせる4つの方法を紹介します。
3-1 早期発見
認知症は早期に発見し、適切な治療やサポートを受けることが大切です。認知症と診断された高齢者が早期から治療や支援を受けると、症状の進行が緩やかになり、重症化を遅らせることができます。早期発見のために重要なのは、以下の2点です。
- 家族など周囲の人が高齢者の異変に気づく
- 年1回程度の定期健診を受ける
認知症は、家族の「物忘れが多い気がする」「元気がない」「怒りっぽくなった」といった変化で、気付くケースが多々あります。家族や身近な人は、認知症のサインに気付いたら、早めにかかりつけ医や専門医への受診を勧めましょう。受診を勧めにくい場合は、「たまには健康診断を受けに行こう」という誘い方もあります。また、地域包括支援センターでは高齢者家族などの困りごとについて相談を受け付けているため、相談窓口に足を運ぶのもよい方法です。家族の意見は聞き入れにくい人でも、看護師や保健師といった専門家のアドバイスには耳を貸す場合があります。
3-2 認知症の薬
アルツハイマー型認知症やレヴィー小体型認知症など、認知症のタイプによっては、薬が処方されます。認知症薬の作用は、脳細胞を活性化させる、不安感を軽減させるなど、症状を緩和する働きです。
なお、アルツハイマー型認知症の原因に働きかける新しい治療薬「レカネマブ」が日本でも薬事承認され、2023年12月から発売されています。レカネマブは、軽度のアルツハイマー病について、認知障害や症状を止める働きが期待される治療薬です。認知症は今後、新しい薬が研究開発されるとともに、既存の療法と組み合わせて治療が進められる見込みです。
(参考:国立長寿医療研究センター「アルツハイマー病の新しい治療薬(前編)レカネマブについて」)
3-3 脳トレは無理にしなくてもよい
無理な脳トレは本人の負担になり、かえって認知症を進行させる恐れがあります。脳トレの種類は、計算や漢字の問題、クイズゲーム、折り紙、塗り絵などです。脳トレを行うと、頭を使ったり、細かい動きをしたりするので、脳によい影響があると言われています。
一方で認知症は、ストレスを感じると症状が悪化する可能性のある病気です。できないことを強制されて自信を喪失し、症状が進むケースもあります。脳トレは、本人が楽しんで取り組んでいる場合は別として、無理に行うべきではありません。なお、本人が脳トレに前向きな場合は、楽しく取り組める雰囲気・環境作りに協力しましょう。
3-4 家族や周囲の接し方で進行が遅れることも
認知症の進行を遅らせるため、家族や周囲の人の接し方は重要です。認知症の症状は、物忘れが多くなる、何度も同じことを繰り返す、理解や判断が遅くなる、性格が変わるといったものです。認知症高齢者の身近にいる人は、本人の変化に戸惑い、対応できない場合があります。
認知症になったときの困惑は、本人にも生じています。
認知症になると、自分の言いたいことがうまく言えないもどかしさや、当たり前のことができない不安を感じる人が多い傾向です。焦りや不安が生じている中で、周囲の人に責められたり呆れられたりすると自信を喪失し、認知症が進行するという悪循環に陥りかねません。
身近な人が認知症になったら、認知症に関する正しい知識を身に付けることが大切です。
家族や周囲の人が正しい知識を身に付け、本人になるべく普段通りの生活を送ってもらえるようサポートしましょう。なお、自治体では、認知症家族の会や認知症カフェを紹介しているところがあります。必要に応じて社会資源を利用すると、息抜きになり、家族の負担も軽減します。
4 認知症高齢者を支援する公的サービス
家族や自分が認知症になったら、介護保険サービスや自治体サービスも利用しましょう。高齢社会において、家族の介護疲れは深刻な問題です。介護疲れから、介護うつや高齢者の虐待を引き起こすケースもあります。家族や自分だけで認知症や介護の問題を抱えず、社会資源を活用することが大切です。以下で、認知症の人が利用できる公的サービスの一例を紹介します。
- 訪問介護・訪問看護・訪問リハビリ・訪問入浴など、自宅に来てもらうサービス
- デイサービス・通所リハビリなど、自宅から通うサービス
- 認知症カフェ・家族教室など、地域の繋がりを作れるサービス
- 住宅改修・配食サービス・緊急通報システム設置など、安心できる環境を整えるサービス
公的サービスの中には、高齢者なら誰でも利用できるものと、介護認定を受けて要介護度が出てから利用できるものがあります。認知症が進行し、日常生活に介助・介護が必要になったときは、介護認定を受けると利用できるサービスの幅が広がります。
まとめ
認知症を予防するためには、規則正しい食生活・適度な運動習慣・社会との繋がり、の3つが大切です。また、認知症になった場合でも早期発見できれば、治療や支援によって進行を遅らせることができます。認知症を予防するため生活習慣を見直すなど、できることから始めましょう。
認知症になる前の終活・相続対策について、考えをまとめておくにはエンディングノートの活用や、相続勉強会への参加がおすすめです。エンディングノートサロンや相続勉強会は、開催日程が決まり次第HPなどでお知らせしますので、ぜひご参加ください。