高齢者に障害者手帳は必要?65歳以上の方が手帳を取得するメリットを解説

65歳以上の高齢者に介護が必要になったときは、障害福祉サービスよりも介護保険サービスが優先されます。例えば、ヘルパーが在宅の要支援者を援助する「訪問介護」は、介護保険にも障害福祉サービスにも同様のサービスがあります。65歳以上の障害者が「訪問介護」を利用したいときは、介護保険上の「訪問介護サービス」を優先して利用するしくみです。

ただし、障害者手帳を持っていることでお得になる制度やサービスがあるため、高齢者が手帳を取得するメリットは少なくありません。当記事では、65歳以上の方が障害者手帳を取得するメリットや、取得方法について紹介します。身近な高齢者の状態が障害に該当する場合や、障害者手帳の申請方法を知りたいときの参考にしましょう。

 

1 障害者手帳の種類

障害を大別すると、精神・身体・知的の3つです。障害者手帳も3つの障害で分かれており、何の障害に該当するかによって申請する手帳が異なります。ここから、3障害それぞれの手帳と、手帳に該当する可能性のある高齢者について説明します。

 

1-1 精神障害者保健福祉手帳

精神障害者保健福祉手帳は、精神障害や発達障害を持つ方に交付される手帳です。高齢者の場合、認知症を原因とする精神疾患により日常生活に支障が出ている状態が6か月以上続くとき、手帳が申請できます。

 

・精神障害の種類

精神障害者保健福祉手帳に該当する精神疾患には、統合失調症・気分障害・躁うつ病・てんかん・中毒精神病・せん妄・幻覚・高次脳機能障害・発達障害などが挙げられます。認知症の場合、精神障害者保健福祉手帳の対象になる病名や疾患は決まっていません。「認知症を原因とした症状が日常生活に支障をきたしている」という点で手帳に該当するのか判断します。

(参考:厚生労働省「精神障害者保健福祉手帳の障害等級の判定基準について」)

 

・精神障害者保健福祉手帳の等級(1級~3級)

精神障害者保健福祉手帳の等級は、1(重度)~3級(軽度)です。各級の程度は、疾患の種類や環境にもよりますが、1級は介護なしでは生活が難しい状態、3級が援助を必要とする状態と言われてます。

 

・精神障害者保健福祉手帳の更新

精神障害者保健福祉手帳は、2年に1回の更新が必要です。更新する場合、新規申請と同様の手続きで、自治体の窓口に申請します。期限の3か月前から手帳の更新申請が可能なので、期限切れになる前に手続きましょう。

 

1-2 身体障害者手帳

高齢者が取得を検討する手帳は、身体障害者手帳が多い傾向です。身体障害者手帳を取得できるのは、身体の機能に基準以上の障害があり、障害が将来にわたって永続的に残る状態に限ります。身体障害者手帳の取得を考える高齢者が多い理由は、脳梗塞による半身麻痺や、加齢による聴力の低下でも手帳に該当するケースがあるためです。

 

・身体障害の種類

身体障害には、視覚障害・聴覚または平衡機能の障害・音声機能・言語機能またはそしゃく機能の障害・肢体不自由・心臓やじん臓機能など内部障害・ヒト免疫不全ウイルスによる免疫機能の障害などが該当します。

 

・身体障害者手帳の等級(1~6級)

身体障害者手帳の級について、視覚障害・聴覚障害・肢体不自由・内部障害など障害の種類ごとに「この状態は何級」と詳しい状態を定めているのが「等級表」です。例えば、下肢の障害に関して「両下肢の機能が全廃」した状態は1級、「両下肢の機能の著しい障害」は2級に該当すると等級表に記されています。

身体障害の等級は、都道府県・指定都市または中核市が指定する医師の診断によって判定されるものです。指定医の診断書と手帳の申請書を居住地の自治体窓口に提出すると、都道府県知事や市長が交付主体となり、手帳が発行されます。

なお、手帳が発行される等級は、1(重度)~6級(軽度)です。一方で、「等級表」には、1~7級までの区分があります。7級に該当する障害が2つ以上重複するときは、6級と認定されます。

(参考:厚生労働省「身体障害者障害程度等級表」)

 

・身体障害者手帳の更新

身体障害者手帳は、原則として更新がありません。身体障害者手帳は、体に生じている障害が永続することを前提に発行されます。リハビリや成長などによって改善する症状は身体障害と認定されないケースが多いため、更新を必要としません。

ただし、障害の種類によっては、一定期間後に再認定を行う場合があります。再認定の可能性がある障害は、「更生医療」と呼ばれる障害を除去・軽減する特別な医療によって効果が期待できるものなどです。

(参考:厚生労働省「身体障害者障害程度の再認定の取り扱いについて」)

 

1-3 療育手帳

療育手帳は、知的障害のある方に交付される手帳です。知的障害とは、おおむね18歳未満までに生じた認知や言語にかかわる障害のため、高齢になってから初めて療育手帳を取得するケースは、ほとんどありません。

療育手帳は、各自治体で判定の基準を設けています。例えば東京都の場合、療育手帳は「愛の手帳」と呼ばれ、1度(最重度)~4度(軽度)の状態に区分されます。

(参考:東京都心身障害者福祉センター「愛の手帳について」)

 

2 高齢者が障害者手帳を取得するメリット

65歳以上の方が障害者手帳を取得すると、医療費や税金などの面でメリットがあります。ここからは、高齢者が障害者手帳を持つと受けられる割引や優遇について、詳しく紹介します。

 

2-1 75歳未満でも後期高齢者医療制度を利用できる

障害者手帳を持っていると、75歳未満でも後期高齢者医療制度を利用できる可能性があります。後期高齢者医療制度は、原則75歳以上の人が加入する公的医療保険です。後期高齢者医療制度に加入している人が医療機関などで支払う自己負担額は原則1割、所得によっては2割~3割の方もいます。

一定の障害がある65歳~74歳の方は、75歳を迎える前に後期高齢者医療制度に加入でき、自己負担額を軽減できます。手帳を取得し後期高齢者医療制度を選択することで、所得や年齢によっては、自己負担額が3割から1割になります。

なお、75歳未満で後期高齢者医療制度を選択できるのは、障害が中~重度の方です。身体障害者手帳の場合、1級・2級・3級と4級の一部が制度を利用できる等級に該当します。精神障害者保健福祉手帳の場合は、1級・2級が制度に該当する状態です。

 

2-2 公共交通機関やタクシーなどの障害者割引

障害者手帳を持っていると、以下の割引などが受けられます。

  • 公共交通機関
  • タクシー
  • 高速道路・ETC
  • 美術館・博物館・レジャー施設
  • NHK受信料

例えば高速道路・ETC割引の場合、手続きすると身体障害者手帳を持っている人が運転するときや重度の障害者が同乗するときなどに、50%の割引を受けられます。なお、該当する障害や割引の要件は、それぞれの割引制度によって異なることに注意しましょう。また、割引を利用するには、自治体・運営主体への申請が必要な場合もあります。

(参考:NEXCO西日本「有料道路における障がい者割引制度についてのご案内

 

2-3 本人や配偶者・扶養者の税金が優遇される

障害者手帳を持っていると、所得税や住民税の障害者控除が受けられる場合があります。障害者控除とは、障害を持っている人の所得のうち一定の額を課税額に含めないことです。控除によって課税される所得額が少なくなるため、税金の負担が軽くなります。

所得控除は本人だけでなく、配偶者や扶養者にも適用される制度です。例えば、扶養している高齢の親が障害者手帳を取得した場合、減税になる可能性があります。

障害者控除は以下の通り、所得税と住民税に適用されます。

区分所得税の控除額住民税の控除額
障害者27万円26万円
特別障害者40万円30万円
同居特別障害者75万円53万円

障害者控除の対象になるのは、障害者手帳を交付されている人や、自治体の認定を受けている人です。特別障害者は、身体障害者手帳の等級が1級・2級、精神保健福祉手帳の等級が1級など、障害の程度が重い方になります。同居特別障害者は、特別障害者と同居している場合の控除です。

(参考:国税庁「障害者控除」)

 

3 精神障害者保健福祉手帳の取得方法

高齢期の障害は、精神障害者保健福祉手帳に該当する場合もあります。ここからは、精神障害者保健福祉手帳の取得を検討しているときの手続きなどを紹介します。

 

3-1 高齢期で精神障害者保健福祉手帳に該当する状態とは?

認知症により精神状態に影響が出ている場合、精神障害者保健福祉手帳に該当する可能性があります。認知症は、精神疾患のうち「器質性精神障害」の1つです。認知症による記憶力の低下や見当識障害、せん妄、幻覚といった症状により、長期にわたって日常生活や社会生活に支障が出ているときは、手帳の対象になります。なお、精神障害者保健福祉手帳を取得するための要件は、該当の疾患で初診した日から6か月以上たっていることです。

(参考:厚生労働省「精神障害者保健福祉手帳の障害等級の判定基準について」)

3-2 精神障害者保健福祉手帳の申請方法

手帳の申請は、市区町村の窓口で行います。申請には、以下の書類が必要です。

  • 申請書
  • 診断書
  • 手帳を取得する方の顔写真(縦4cm×横3cmのサイズ)
  • 印鑑 など

申請書は、市区町村の障害担当窓口や福祉事務所に置かれています。診断書は、初診日から6か月以上経過している時点で作成したものでなければなりません。精神障害によって年金を受給している方は、障害年金証書の写しが診断書の代わりになります。なお、申請方法や必要書類は自治体によって異なるため、事前に居住地の担当窓口や公式サイトで確認しましょう。

 

4 身体障害者手帳の取得方法

高齢期には、脳梗塞などの後遺症で麻痺が残る・骨折によって歩行が困難になる、といった理由で、身体障害者手帳の取得を検討するケースが多い傾向です。ここからは、身体障害者手帳の申請方法を紹介します。

 

4-1 加齢が原因の障害でも手帳を取得できる?

特別な疾患がなく、加齢によって障害が生じた場合でも、身体障害者手帳の交付を受けられます。加齢による障害とは、例えば高齢期に足腰が弱くなり、歩行できなくなったケースです。介護認定によって要介護度が出ている方でも、身体障害者に該当する状態であれば手帳の取得が可能です。

 

4-2 身体障害者手帳の申請方法

手帳の申請は、市区町村の窓口で行います。申請には、以下の書類が必要です。

  • 申請書
  • 指定医による身体障害者診断書・意見書
  • 手帳を取得する方の顔写真(縦4cm×横3cmのサイズ)
  • 印鑑 など

申請書は、市区町村の障害担当窓口や福祉事務所に置かれています。診断書・意見書は、「身体障害者福祉法第15条指定医師」が作成しなければなりません。かかりつけ医が指定医でない場合、指定医のいる医療機関を受診し、診断書・意見書を発行してもらう必要があります。なお、申請方法や必要書類は自治体によって異なるため、事前に確認しておくと安心です。

 

まとめ

65歳以上の方が障害者手帳を取得するメリットは、主に以下の3点です。

  • 75歳未満で後期高齢者医療制度を利用できる
  • 公共交通機関・タクシー・各種施設などで障害者割引を受けられる
  • 本人や配偶者・扶養者の税金が優遇される

障害者手帳によってどの程度メリットがあるかは、本人と世帯の収入や状況によって異なります。タクシー・高速道路・各種施設などの障害者割引は、手帳を持っている方が適用になるため、直接的なメリットを感じやすい部分です。

 

 

認知症への備えとして《相続》の準備はお済みでしょうか?

認知症になって障害者手帳の状態に該当すると、相続対策は難しい場合が多くなります。相続トラブルなど、将来の心配事を減らしておくと、万が一のときも安心です。

株式会社日本中央住販は、不動産相続について全5回シリーズの勉強会を開催中です。土地や家の相続について知識があれば、高齢の親が介護や障害の状態になったときの心配を和らげることができます。奈良県周辺にお住まいの方はぜひ、以下からお申し込みください。

相続勉強会(全5回)

関連記事