在宅介護にかかる費用の平均は、月額4.8万円だと言われています。実際の費用は、高齢者を取り巻く環境やニーズ、介護度などによって異なるので、一概に平均程度になるとは限りません。
当記事では、在宅介護の費用について、出費の種類や、実際の額を解説します。これから家族の介護が必要になる方や、老後を安心して迎えたい方は、費用の参考にしましょう。
(参照:公益財団法人 生命保険文化センター「介護にはどれくらいの費用・期間がかかる?」)
1 要介護度別の費用
介護費用を要介護度別に考えると、一般的には要介護度が重いほど、必要とする介護サービスが多く、利用料が高くなる傾向です。介護保険では、利用する介護サービスについて1~3割の金額を自己負担します。9~7割のサービス利用料は、保険でまかなうしくみです。介護保険で支給するサービス利用料は、1か月あたりの限度額が決まっており、要介護度が重いほど限度額も大きくなります。以下は、要介護度と利用限度額を示した表です。
要介護度 | 利用限度額 (月額) | 限度額まで利用したときの 自己負担額(1割負担の場合) |
要支援1 | 50,320円 | 5,032円 |
要支援2 | 105,310円 | 10,531円 |
要介護1 | 167,650円 | 16,765円 |
要介護2 | 197,050円 | 19,705円 |
要介護3 | 270,480円 | 27,048円 |
要介護4 | 309,380円 | 30,938円 |
要介護5 | 362,170円 | 36,217円 |
(出典:厚生労働省「サービスにかかる利用料」)
表の自己負担額は、1割負担の高齢者がサービスを上限いっぱいまで使ったときの事例です。実際の費用は、本人の所得やサービスの利用量によって異なります。
2 在宅介護でかかる費用の種類
在宅介護では、高齢者本人の生活の維持や、介護者の生活の変化によってさまざまな費用が生じます。具体的には、介護サービス・介護用品・住宅改修・配食サービスなどで費用負担が生じます。
ここから紹介するのは、在宅介護でかかる費用の種類です。紹介するのはあくまで一例なので、実際には負担する必要のない費用や、別の費用がかかるケースもあります。
2-1 介護サービス利用料
介護サービス利用料は、訪問看護・ホームヘルパー・デイサービスなどの介護サービスを利用したときの自己負担額のことです。要介護認定を受け、介護保険のサービスを利用する場合、自己負担額は利用したサービスの1~3割です。自己負担額の割合は、本人や世帯の所得によって異なります。
なお、介護サービスは、介護保険以外でも利用できるものもあります。介護保険以外のサービスは、社協で実施するホームヘルプサービスや、民間企業が提供する外出支援などです。介護保険外のサービスを利用した場合の料金は、原則として全額自己負担になります。介護サービスの出費を抑えるには、できるだけ介護保険や公的サービスを利用するのがおすすめです。
2-2 福祉用具・介護用品
福祉用具や介護用品は、介護ベッド・滑り止めシート・防水シーツ・おむつ・除菌シート・消臭スプレーなどが該当します。介護用品や福祉用具は、介護をスタートするときにまとめて購入することが多いでしょう。介護を始めるとき一時的にかかる費用の平均は、74万円と言われています。また、介護用品や福祉用具には消耗品が多く、月々のコストとして家計の負担になる場合もあります。
なお、福祉用具は、介護保険でレンタルできるものや購入費助成を受けられる品目があるため、うまく利用しましょう。車いす・ 介護ベッド・ 手すり ・ スロープ・歩行器など13品目の福祉用具は、介護保険でレンタルできます。入浴や排泄時に利用する福祉用具は、介護保険の購入費助成の対象です。介護保険でのレンタルや購入ならば、利用者の自己負担額は、全体の1~3割ですみます。
また、紙おむつなどの介護用品については、市区町村で助成・給付を行っているところがあります。詳細は、自治体窓口や居住地を管轄する地域包括支援センターにお問い合わせください。
(参照:公益財団法人 生命保険文化センター「介護にはどれくらいの費用・期間がかかる?」)
2-3 住宅改修
住宅改修は、バリアフリー化や、危険な箇所を補修するために行います。介護のための住宅改修は、まとまった額が急に必要になる場合があります。例えば、脳梗塞で入院すると、後遺症により移動が困難になるケースが少なくありません。退院後も在宅で生活するためには、段差解消や手すりの取り付けを考える必要があります。
住宅改修の種類によっては、介護保険でまかなえます。介護保険の対象となる改修は、手すりの取付け・段差解消・滑りにくい床材への変更などです。費用は20万円を上限とし、1~3割が本人の自己負担です。改修費用を介護保険でまかなえない場合、設置型の手すりやスロープの利用でカバーできる住宅もあります。
2-4 交通費
介護が始まったとき、想定外にかさむのが交通費です。交通費の内訳は、病院に通院するときや付き添いの費用、介護にかかわる家族の帰省費用などがあります。
高齢者の交通費は、市区町村の高齢者福祉サービスで割引になる可能性があります。自治体によっては、タクシーや公共バスの高齢者割引が利用可能です。割引制度を利用するには、窓口での申請が必要な場合があるので、自治体に確認しましょう。
なお、家族介護のために飛行機を利用するときは、航空会社の割引制度を使えます。鉄道会社を使う場合も、年齢やシーズンによっては割引が適用になるので、必要に応じて利用しましょう。
(参照:ANA「介護割引」)
2-5 在宅介護によって増加するその他の費用
在宅介護がスタートすると、光熱費や食費も増加するケースが多くなります。光熱費や食費は、高齢者の健康を維持するために削るのが難しい部分です。光熱費や食費は過度に節約するよりも、必要経費として考えたほうが高齢者の健康を保ち、トータルコストが下がる場合があります。例えば、夏場のエアコン使用を控えた高齢者が熱中症で倒れる事例は、後を絶ちません。熱中症で病院にかかると、医療費や食費がかさむ、家族が看病のために仕事を休むなど、かえって負担が増えるでしょう。
なお、光熱費は長期的に見ると省エネ家電への買い替えで電気代を節約できる可能性があります。食費については、配食サービスを利用すると栄養バランスのよい食事がとれ、費用も抑えられます。
3 在宅介護と施設介護の費用比較
在宅介護の平均費用は月額4.8万円に対し、施設介護の平均は月額12.2万円です。以下の表は、在宅介護と施設介護の費用を比較しています。
(参照:公益財団法人 生命保険文化センター「介護にはどれくらいの費用・期間がかかる?」)
在宅介護 | 特別養護老人ホーム | 有料老人ホーム | |
入居一時金 | なし | 0円 | 0~数千万円 |
月額費用 | 月額平均4.8万円 | 月額約5~20万円 | 月額約10~35万円 |
施設に入所すると、居住費(家賃)・介護サービス費・食費・日常生活費・医療費・娯楽費などがかかります。費用面で施設を検討するなら、特別養護老人ホームのような公的施設がおすすめです。ただし公的施設は、入居できる要介護度が決まっている・所得制限がある・人気が高く入居待ちの状態になるなど、希望の施設に入れる確約はありません。有料老人ホームは、公的施設に比べると費用がかかる一方で、高齢者の望む生活を送りやすい傾向です。
在宅介護と施設介護を比較すると、在宅介護のほうが費用を抑えられます。一方で、在宅介護は、家族の心身にかかる負担が大きくなりがちです。
4 在宅介護の費用負担を減らす方法
在宅介護の費用負担を減らすには、介護保険サービスを利用する方法と、それ以外の制度の適用を受ける方法があります。ここからは、それぞれの方法について詳しく説明します。
4-1 介護保険サービスを利用する
在宅介護の費用負担を減らすには、介護保険サービスの利用がおすすめです。介護保険で訪問介護や通所介護といったサービスを利用すると、自己負担額は1~3割です。介護保険を使えば、民間の介護サービスを利用するよりも費用を抑えられます。
介護保険サービスを利用するには、要介護認定を受ける必要があります。認定の結果、要介護や要支援の状態と判断されると、サービスが利用可能です。介護保険の申請方法やサービス内容について詳細を知りたいときは、以下のコラムをご確認ください。
介護保険の使い方を徹底解説 | 利用までの流れと主なサービスを紹介
4-2 介護費用の負担を減らす制度
以下の制度や手続きを利用すると、費用負担を減らせる場合があります。
- 住民税非課税世帯
- 高額介護サービス費制度
- 高額介護合算療養費制度
- 住民税の医療費控除
住民税非課税世帯
高齢者が住民税非課税世帯に該当すると、介護費用の負担が軽くなります。住民税非課税世帯は、介護サービス利用料などの上限が低く設定されているためです。収入が年金のみの1人暮らし高齢者は、年金額が155万円以下で住民税非課税世帯に該当します。家族が同居している家庭では、世帯分離の手続きを行うことで、高齢者が住民税非課税世帯になるケースもあります。
高額介護サービス費制度
介護サービスをたくさん使い、自己負担額が上限額を超えた月について、利用料の一部が戻ってくるのが高額介護サービス費制度です。制度が適用される月には、自治体からお知らせが郵送されるため、特別な手続きは必要ありません。
高額介護合算療養費制度
高額介護合算療養費制度は、1年間の医療保険と介護保険の合計負担額が一定額を超えたとき、負担金の一部が返還される制度です。制度を利用するために申請の必要はなく、自治体からお知らせが届くしくみです。
住民税の医療費控除
介護費用の中には、医療費に充当するものがあります。在宅介護の中で医療費として計上できるのは、訪問看護・訪問リハビリ・居宅療養管理指導・通所リハビリなど、医療と連携するサービスです。控除を受けるには、1年間の医療費を合計し、確定申告する必要があります。
まとめ
在宅介護の費用は月平均4.8万円であり、施設と比較すると介護費用が低い傾向です。在宅介護にかかる費用には、介護サービス利用料・福祉用具・介護用品・住宅改修・交通費・光熱費・食費などがあります。こうした費用負担を減らすためには、介護保険や市町村独自の高齢者福祉サービスの利用がおすすめです。世帯の状況や所得によっては、住民税非課税世帯に該当する場合や、介護サービス費・医療費が返還されるケースもあります。
介護はいつ始まり、いつまで続くのか予想できません。制度やサービスをうまく活用し、費用負担や将来への不安を軽減しましょう。
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