厚生労働省の調査によれば、介護が必要になった原因は多い順に「認知症」「脳血管疾患(脳卒中)」「骨折・転倒」です。要介護度が重くなるほど、三つを原因として介護が必要になった高齢者が増える傾向にあります。当記事では、介護の3大要因について、症状や予防法を解説します。今からできる予防法についても紹介するので、寝たきりや常時介護が必要な状況を防ぐために役立てましょう。
(出典:厚生労働省「2022年 国民生活基礎調査の概況 Ⅳ 介護の状況」)
1 介護の原因第1位「認知症」
認知症は、介護原因として最も多い疾病です。認知症高齢者が増えた背景には、平均寿命の伸びや、認知症薬の普及により認知症と診断される人が増えたことなどが挙げられます。介護保険制度でも、グループホームや認知症デイサービスなど認知症に対応したサービスがあり、本人や家族の生活を支援しています。ここからは、認知症の種類や症状とともに、今からできる予防法を紹介します。
1-1 認知症の種類
認知症の種類として多いのは、「アルツハイマー型認知症」「血管性認知症」「レビー小体型認知症」「前頭側頭型認知症」です。
アルツハイマー型認知症
認知症の中で最も多くの割合を占めるのがアルツハイマー型認知症だと言われています。アルツハイマー型認知症患者の脳は、記憶領域である海馬を中心に脳が萎縮している状態です。脳の萎縮は、神経細胞に「アミロイドベータ」と呼ばれるたんぱく質が溜まり、脳細胞を破壊するために起こります。アルツハイマー型認知症の特徴は、もの忘れから始まることがほとんどです。症状の進行には個人差がありますが、一般的には軽度→中度→重度と緩やかに進み、時間をかけて認知機能の低下などが起こります。
血管性認知症
血管性認知症は、脳卒中が原因です。症状は、脳卒中によりダメージを受けた脳の部位によって症状が異なります。具体的には、記憶障害・失語・運動機能の障害などが症状として現れます。血管性認知症は、脳血管障害の発作が起きるたびに症状が重度化したり、ほかの症状が現れたりすることがほとんどです。発作が起きなければ現状を維持でき、一時的に回復する場合もあります。
レビー小体型認知症
レビー小体型認知症は、「レビー小体」と呼ばれるたんぱく質が神経細胞に溜まり、ダメージを受けることで発症する病気です。レビー小体は、パーキンソン病の原因とも言われており、レビー小体型認知症とパーキンソン病は似た症状が現れます。
レビー小体型認知症は、60歳以上の人に発症することがほとんどです。症状は、状態がよいときと悪いときを繰り返し、徐々に進行します。また、パーキンソン病のような手足の震えや歩行障害、幻覚の訴えがあるのもレビー小体型認知症の特徴です。
前頭側頭型認知症
前頭側頭型認知症は、脳の前頭葉や側頭葉が萎縮して起こる認知症です。萎縮の原因は、脳に異常構造物やたんぱく質が蓄積することだと言われていますが、詳しくは解明されていません。前頭側頭型認知症の発症年齢は比較的若く、50代の頃から10年以上の時間をかけて進行することが多い傾向です。認知症の初期には、性格が乱暴になる・反社会的な行動をする・身のまわりのことに気を遣えなくなるなど、社会性の低下がみられます。症状が進行すると、認知機能や意欲の低下が起こります。
1-2 認知症の症状
認知症の症状には、中核症状と周辺症状(BPSD)があります。中核症状は、病気そのものの症状で、主に認知にかかわる部分の低下です。周辺症状は二次的な症状で、中核症状に関係して行動や心理に変化が現れます。
認知症の主な中核症状
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認知症の主な周辺症状
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中核症状は、認知症の種類にもよりますが、初期から現れることの多い症状です。一方で周辺症状は、本人の性格・環境などによって現れ方に個人差があり、環境の変化や治療で改善するケースもあります。症状の悪化を防ぎ、認知症の進行を緩やかにするためには、初期状態での診断と治療が大切です。
1-3 認知症の予防法
認知症を完全に予防する方法は確立されていません。一方で、認知症は生活習慣と密接にかかわっていると言われています。例えば、血管性認知症の原因である脳梗塞や脳出血は、高血圧の人に起こりやすい疾病です。規則正しい生活やバランスのよい食事をとり、生活習慣病のリスクを遠ざけることで、認知症の予防に役立ちます。また、趣味の時間や社会とかかわる時間を持ち、脳を活性化することも認知症予防に効果があると言われています。
なお、認知症の進行を遅らせるためには、早期から医療機関で治療を始めることが重要です。高齢者の言動で「おかしいな?」と感じる部分があれば、かかりつけ医や専門医の受診につなげましょう。
2 介護の原因第2位「脳血管疾患(脳卒中)」
脳血管疾患は、介護が必要となった原因として2番目に多い疾病です。特に男性の場合、高齢による衰弱よりも、脳血管疾患や心疾患で突然倒れるケースが多いといわれています。脳血管疾患をきっかけに、生活のあらゆる部分で介護が必要になる人は少なくありません。ここからは、脳血管疾患の種類や予防法を紹介するので、高齢者の健康な生活のために役立てましょう。
2-1 脳血管疾患(脳卒中)の種類
脳血管疾患の種類には、脳梗塞・脳出血・くも膜下出血があります。
脳梗塞
脳血管疾患のなかで最も多いのが脳梗塞で、脳血管疾患の約半数を占めると言われています。脳梗塞は、脳血管の詰まりや、心臓にできた血栓が脳に運ばれることで起きる病気です。血栓によって脳細胞への血流がストップするため、ダメージを受けた部位に症状が出ます。脳梗塞の後遺症は、半身麻痺・言語障害・意識障害などです。
なお、脳梗塞の前兆として一過性脳虚血発作(TIA)が起きる場合もあります。一過性脳虚血発作(TIA)は、一時的に脳への血流がストップし、麻痺などの症状が出ます。症状は1時間程度でおさまることがほとんどですが、放置すると脳梗塞が起きる可能性が高いので、早期の治療が必要です。
脳出血
脳出血は、脳内の小さな血管が破裂・出血して起こり、重い後遺症を残しやすいと言われています。後遺症は、ダメージを受けた部位によりますが、体の痺れ・意識障害・嚥下障害・高次脳機能障害などが現れます。
くも膜下出血
くも膜下出血は、脳の表面の大きな血管にできたコブが破裂し、くも膜の内側や隙間に出血した状態です。脳出血との違いは主に、出血する部位にあります。脳の中の小さな血管が出血するのが脳出血、脳表面にある大きな血管にできたコブから出血するのがくも膜下出血です。くも膜下出血では、突然の頭痛・めまい・嘔吐が起こり、失神する人も少なくありません。また、くも膜下出血は脳血管疾患のなかでも死亡率が高く、治療後も後遺症が残るケースがほとんどです。
(参考:厚生労働省「e-ヘルスネット 脳血管障害・脳卒中」)
2-2 脳血管疾患(脳卒中)の後遺症
脳血管疾患により、以下のような後遺症が残る場合があります。
- 左右どちらかの運動麻痺
- 感覚麻痺
- 視野や視覚の障害
- 嚥下障害
- 構音障害
- 高次脳機能障害
- うつ・気分障害 など
脳血管疾患の後遺症は、寝たきりになるなど、重篤なケースもあります。また、介護原因の上位にある認知症や骨折・転倒も、脳血管疾患によって引き起こされるケースが少なくありません。脳血管疾患の予防は、要介護状態を避けるために重要な意味を持ちます。
2-3 脳血管疾患(脳卒中)の予防法
脳血管疾患(脳卒中)予防の方法として、日本脳卒中協会が「脳卒中予防十か条」を提示しています。
脳卒中予防十か条
(引用:日本脳卒中協会「脳卒中予防十か条」 引用日:2024/10/10) |
脳血管疾患は、高血圧と密接にかかわっていると言われています。生活習慣を見直し、高血圧を予防すると、脳血管疾患のリスクが低下します。また、体の状態を知るために、普段の血圧を把握したり、脳ドッグを受けたりするのも、脳血管疾患の予防において大切です。
3 介護の原因第3位「骨折・転倒」
骨折・転倒は、要介護原因の第3位です。高齢期になると身体機能の低下により、若い頃より転倒のリスクが高まります。また、高齢者は筋力や骨密度も低下しているため、軽くつまづいただけで骨折につながる恐れがあります。骨折・転倒は、要支援の介護原因にも多く、介護の入口と言えるでしょう。ここからは、高齢者の転倒と骨折を防ぐ方法を紹介します。
3-1 骨折しやすい部位
以下の部位は、高齢者が特に骨折しやすいため、注意が必要です。
太ももの付け根(大腿骨近位部骨折)
大腿骨近位部骨折の原因は、ほとんどが転倒です。大腿骨近位部骨折は、治療やリハビリに時間がかかるため、筋力・体力の低下や気力の減退を引き起こし、寝たきりになりやすい骨折です。
背骨(脊椎圧迫骨折)
背骨は、臀部や背部を強打することで骨折しやすい部位です。日頃の姿勢や骨粗鬆症によって、いつのまにか圧迫骨折が起きている場合もあります。
手首
手首の骨折は、転倒して手をついたときに起きやすいと言われています。
腕の付け根
腕の付け根は、転倒して肩を打ったときや、地面に肘・手をついて体重がかかったときに折れやすい部位です。
3-2 骨折・転倒の予防法
骨折の原因となる転倒は、部屋の照明を明るくする、床に物を置かないといった生活の工夫で防げます。転倒のリスクは、リビング・廊下・浴室・キッチンなど、あらゆる場所に潜んでいます。特に、1~2cmの段差は気付きにくく、つまずきやすいため、注意しましょう。
カーペットにはすべり止めを付ける、コードの配線はまとめておくなど、ちょっとした心がけで転倒を防げます。また、浴室は床が濡れている場合が多く、転倒しやすい場所の1つです。すべりにくい素材のマットを置く、手すり・椅子を設置するなどの方法で、大きな事故を防ぎましょう。
屋外では、足にフィットする靴を選び、車止めなどの段差に注意して歩きます。必要に応じて歩行補助杖やシルバーカーを用いると、転倒防止に役立つでしょう。
なお、転倒した場合にも軽傷ですむよう、定期的な運動により筋力の維持に努めること、骨粗鬆症の検査・治療に取り組むことも大切です。関節に痛みがあるなど、自覚症状がある場合も、医療機関での診察をおすすめします。
(参考:政府広報オンライン「たった一度の転倒で寝たきりになることも。転倒事故の起こりやすい箇所は?」)
4 介護状態になるのを防ぐポイント
介護状態になるのを防ぐためには、日常生活を見直しましょう。以下は、健康で元気な日々を送るために気を付けたい3つのポイントです。
4-1 生活習慣を整える
健康の三大柱である「バランスのよい食事」「十分な睡眠」「定期的な運動」は、要介護状態を防ぐ上でも大切です。
・食事
たんぱく質・炭水化物・脂質・ビタミンといった栄養素をまんべんなくとれるよう意識しましょう。まずは、バランスのよい塩分控えめな食事を意識し、足りない栄養素はサプリメントや栄養補助食品を活用します。
・睡眠
睡眠不足は、肥満や生活習慣病、認知症にかかわることがわかっています。疾病予防のためにも質の高い睡眠を取り、体を休めることが大切です。なお、適切な睡眠時間やタイミングは人によって異なります。朝起きたときに気分がすっきりしている眠りが質の高い睡眠と言えます。
・運動
高齢者の運動量は、歩行などの身体活動を毎日約40分(約6,000歩)以上、筋トレ・バランス運動・柔軟など多彩な運動は週2~3日回が推奨されています。運動は、体操・ストレッチ・階段昇降など、無理のない範囲で構いません。ショッピングモールを歩いてみる、美術館へ出かけるなど、友人とゴルフに出かけるなど、自分が楽しめることで体を動かすと自然に運動量を増やせます。
(出典:厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド 2023」)
4-2 社会参加
周囲の人とのかかわりが減ると、気分が沈みがちになったり、認知症が進んだりする可能性があります。社会参加の方法は、地域活動への参加・ボランティアやシルバー人材センターへの登録・趣味のワークショップへの参加・パソコン教室で学ぶなど、さまざまです。家で過ごすほうが好きな高齢者の場合、友人や近所の人と話すだけでも社会とのつながりを持てます。
4-3 家族や周囲の人の見守り
高齢の親が離れて暮らしていると普段の様子がわからず、知らないうちに病気が進行したりケガを負ったりすることがあります。高齢者の見守り方法には、地域の見守りサービス・緊急通報システム・民間の安否確認サービスなどがあります。高齢者が住む地域で利用できる見守り方法を確認し、必要に応じてサービス導入を検討しましょう。高齢者の見守りについて詳しくは、以下の記事もおすすめです。
離れて暮らす高齢者の見守り方法 | 公的制度や民間サービスを解説
まとめ
要介護状態になった3大原因は、「認知症」「脳血管疾患(脳卒中)」「骨折・転倒」です。要介護状態を防ぐためには、規則正しい生活習慣と、高齢者自身が生きがいを持って暮らせることが大切です。家族みんなが明るい気持ちで過ごせるよう、介護が必要になる前から備えておきましょう。
要介護状態になる前の備えとして、《相続》についてもお考えでしょうか?
認知症などが原因で要介護状態になると、相続対策は困難なケースがあります。高齢の親が元気なうちから相続対策について知り、将来に備えておきましょう。
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