高齢になると相続のことを考えなければいけませんが、「うちは財産が少ないから相続トラブルは起きない」と思い込んでいる家庭も多いです。
しかし、実際は少額の財産でも、いざ目の当たりにすると、兄弟間でも相続トラブルに発展するケースはよくあります。相続トラブルに発展しないためには、未然に対策を行うしかありません。
そこで、この記事では年間の相続トラブルの件数を基に、よくあるトラブル事例、対処方法を紹介します。
相続トラブルは多い?
そもそも、相続トラブルは少ないと思っている方も多いです。しかし、実際は1年間でも非常に多く、なおかつ相続税の納税者数も年々増加しています。
ここでは相続税の平均課税件数とトラブル件数について紹介するため、相続の状況を確認しましょう。
相続税の納税者数は年間36万人
年度 | 死亡者数 | 課税件数 | 納税者数 | 納付税額(平均) |
令和元年 | 1,381,093人 | 115,267人 | 315,831人 | 1,714万円 |
令和2年 | 1,372,755人 | 120,372人 | 328,615人 | 1,738万円 |
令和3年 | 1,439,856人 | 134,275人 | 362,542人 | 1,820万円 |
出典:相続税・贈与税に係る基本的計数に関する資料 : 財務省
令和3年度の相続税の納税者数は、年間362,542人でした。上記の表を見てお分かりになる通り、年々増加傾向にあり、平均納付額も1,820万円と高額です。
仮に自身や親が亡くなった後、残された家族に「相続税1,800万円支払ってください」と言われたら、誰しもが困ってしまいます。そのため、決して相続を軽視してはいけず対策をしなければいけません。
相続トラブルは年間1万2,981件
裁判所が公表している「2022年 司法統計年報 3 家事編」を確認すると、相続トラブルによって全国の家庭裁判所が受け付けた遺産分割関係事件の件数は、1年間で1万2,981件にもなります。
その内、5,729件(44%)は調停が成立しておりますが、3,791件(29%)は調停が成立せず、裁判官による審判が下されています。さらに遺産分割関係事件の件数のうち、4,542件は、1年以上審理期間を要しており、相続トラブルが長期化している背景もあります。
トラブルの7割は遺産5,000万円以下
遺産分割関係事件の件数のうち、約3割が相続遺産1,000万円以下、4割が5,000万円以下となっています。
相続と聞くと、遺産を多く保有している方が悩む問題だと考える方も多いですが、実際は相続トラブルの7割以上が遺産総額5,000万円以下であることがわかります。
遺産が少ない家庭がトラブルに発展するケースは、「財産のほとんどが実家の土地建物(不動産)で、分割しづらい」「裕福でないため、財産の取り合いが発生する」などの理由が考えられます。
このように、相続はどの家庭でも考慮しておかなければいけない問題です。トラブルになるご家族のほとんどが「自分達は大丈夫だろう」と思っています。
しかし、この考えに根拠はありません。相続が発生してからでは対処できないことが多いため、事前に対策を検討しておく必要があるのです。
次の項では、実際にあった相続トラブル事例を紹介します。よくある事例であるため、事前に確認しておきましょう。
相続トラブルでよくある事例
相続トラブルでよくある事例を3つ紹介します。
- 兄弟間の遺産分割トラブル
- 知らなかった相続人の存在でトラブル
- 特定の人に遺産を相続させてトラブル
ひとつずつ確認しておきましょう。
兄弟間の遺産分割でトラブルになった
このように、兄弟間で相続財産の分割割合に納得できず、トラブルになるケースが多いです。
上記のケースでは、親の介護を行っていた長女。一方、親の介護はおろか、まったく帰省しない長男が居ました。長女の立場からすれば、なにもしていない長男と同じ額の相続財産に納得できません。この様な原因からトラブルになる事例があるのです。
法的には、長男と長女は法定相続分である相続財産の1/4ずつを受け取ることができます。そのため長男の言い分は間違っていないのですが、長女としては不満が残ります。
この場合は長女が行って来た介護の「寄与分」に相当する金額を遺産分割協議の中で話し合い、折り合わなければ家庭裁判所にて調停、それでも合意できなければ審判を受けることになります。この様な争いによって兄弟間の関係が悪化し疎遠になるケースも多いです。
知らなかった相続人の存在でトラブルになった
亡くなった父に前妻との間の子がいた場合、その子も法定相続人に含まれます。(前妻は法定相続人に含まれません)
しかし、その存在を長男と長女は知らず、自分達が得られると思っていた相続財産が減ってしまううことで、第三者とトラブルになるケースも多いです。
また、婚姻関係でなくても、愛人との子ども(非嫡出子)も法定相続人に含まれます(認知が必要)。この様な場合も、残された家族が相続できる財産が減るため、第三者が相続することに納得できずトラブルなる可能性が高いです。
特定の人に遺産を相続させてトラブルになった
生前中の父を介護をしていた「血縁関係がない人」に、遺産を相続させると遺言書に明記されて、トラブルになった事例です。
本来、相続は血縁関係がある配偶者や子どもに遺産が継承されます。
しかし家族関係が悪く、疎遠になっている場合などに、法定相続人以外の「特定の人」に遺産を相続させること(遺贈)も可能です。
もちろん配偶者や子どもは、最低限遺産を相続できる遺留分の権利を主張することができます。しかし遺贈によって相続できる財産が減るため、遺贈を受けた「特定の人」とトラブルになることも多いのです。
相続トラブルが発生した時の3つの解決方法
相続トラブルは予期せぬ事態で発生します。万が一の時に備え、解決方法を3つ紹介します。
- 相続放棄する
- 弁護士に相談する
- 遺産分割調停・審判(裁判)を利用する
ひとつずつ確認しておきましょう。
相続放棄する
相続放棄を行えば、相続トラブルの対象者から外れる可能性が高まります。相続放棄とは相続に関する権利を放棄することです。財産を相続する権利を失うでなく、相続税の納税義務もなくなります。そのため、相続人同士でトラブルに発展した場合、相続争いから距離を置きたい人などに向いています。
相続放棄は相続が発生したことを知ってから「3か月以内」に家庭裁判所に申立てしなければいけません。3か月以降の申請は正当な事由がない限り、原則受理されません。
しかし、相続が発生してから、被相続人(亡くなった方)の遺産を調べたり、相続人の確定(誰が法定相続人になるのか)が3か月で完了しない場合もあるため、3か月で相続トラブルに発展するかわからないという懸念もあります。
さらに相続放棄を行った場合、相続財産に負債が含まれていると、他の親族にも相続されることになります。その結果、相続放棄した人ともトラブルになる可能性は考えるでしょう。
また家族同士の心理的な溝や距離が解消されるわけではない点は理解しておく必要があり、相続放棄をする際は、事前に相続人に伝えておくことをおすすめします。
メリット | デメリット |
|
|
弁護士に相談する
相続トラブルに発展した場合は、即座に弁護士などの専門家に相談すれば、法律的な視点でアドバイスをもらうことも可能です。
事前に相談しておけば、相続人同士の話し合いで解決するケースもあり、調停などに発展する可能性も低くなります。仮に調停に発展した場合は、相談している弁護士にサポートしてもらうこともできます。
ただし、相続する財産額に応じた弁護士費用がかかってしまいます。数十万円で済む場合もあれば、数百万円になる可能性もあるため、相談する前に弁護士費用を確認しておくようにしましょう。
メリット | デメリット |
|
|
遺産分割調停・審判(裁判)を利用する
相続人同士での話し合いで解決しない場合は、裁判所に申立てを行い、遺産分割調停・審判(裁判)を利用して解決する方法もあります。
遺産分割調停とは、調査委員会が相続人から事情や意向を確認し、それぞれ合意できる解決策を提案したりする方法です。
しかし、それでも解決しない場合は、「遺産分割審判」に移行し、裁判官に遺産分割方法を決めてもらいます。
最終的には裁判所が審判しますが、不服申し立てをすることも可能です。そのため長期間にわたって相続トラブルが解決しない場合もあります。
相続トラブルに発展しないためには、事前に対策を行っておかなければいけません。相続が発生してからでは対策できないため、生前中にできる方法を次の項で紹介します。
メリット | デメリット |
|
|
相続トラブルを未然に防ぐ4つの方法
相続トラブルに発展すると、時間と労力を費やしてしまい、精神的にも疲れてしまうため、誰しもが相続トラブルに発展したくないと考えるのではないでしょうか。
ここでは相続トラブルを未然に防ぐ4つの方法を紹介します。
- 家族間で話し合いを行っておく
- 遺言書で遺産分割先を決めておく
- エンディングノートを作成しておく
- 相続に関する知識を深めておく
相続トラブル対策は、被相続人が生前中に行っておくことがベストです。ひとつずつ確認して適切な対処を取るようにしましょう。
家族間で話し合いを行っておく
相続が発生する前に、相続人となる家族と遺産分割について話し合いを行っておくことで、トラブルが起こる可能性を抑えることができます。
家族間でトラブルになる理由の多くは「そんなに財産を持っていることを知らなかった」「公平な遺産分割ではない」「知らなかった相続人の存在」などが挙げられます。
生前中に相続財産を家族に伝え、どのような分割をするのかを決めておくと、相続が発生してからトラブルになる確率を大幅に軽減することが可能です。
また生前中であるからこそ、財産を残す本人の意向も尊重してもらうことができます。亡くなってからでは対処できないことが多いため、家族間で相続について話し合いを行うことが最も有効な対処方法です。
遺言書で遺産分割先を決めておく
遺言書を残しておけば、遺産分割でのトラブルを防ぐことにつながります。遺言書は被相続人の意思を記載した内容であるため、多くのケースで遺言通りに遺産分割が行われます。
ただし、先程のトラブル事例のように、「特定の人に多く遺産を相続させる」などと記載されていると、他の相続人にとっては不公平な相続となり、トラブルのもとになるため注意しなければいけません。
また、自筆証書遺言は遺言者本人が自筆しなければならない等、法律で定められた形式を満たさなければ無効となります。
家族の方と作成した遺言書は、共同作成者が優位に働く内容になりかねないため、自身で検討して作成しましょう。
さらに自筆証書遺言は、相続が発生してから家庭裁判所の検認作業を終えて内容を確認する必要があります。相続人は遺言書を見つけたからと言って、すぐに開封してはいけません。
法務局で遺言書を保管できる「自筆証書遺言保管制度」を利用すれば、相続が発生した後に、相続人に遺言書の所在を伝えてくれるうえ、家庭裁判所の検認作業は不要となります。
自筆証書遺言は、被相続人自身で保管しているケースが多く、作成した遺言書が見つからず、相続に対して故人の遺志が反映されないというリスクも考えられるため、エンディングノートで所在場所を明記しておくのも一つの方法です。
エンディングノートを作成しておく
エンディングノートとは、自分の人生の終末について記したノートのことです。遺言書と異なり、法的な効力はありません。遺言書に書くことができるのは「死後のこと」ですが、エンディングノートは亡くなる前のことを記載することができます。
具体的には、「財産の整理した内容」や「身の回りのこと」「葬儀・お墓について」などの希望を記載し、相続人に伝えにくいことを文章で伝えることが可能です。また遺言書の所在地などを明記しておくことで、相続人に見つけてもらうことも可能です。
エンディングノートは終活のひとつとされ、残された家族の負担を軽減できるため、相続トラブルに発展する可能性を低くすることができます。よりエンディングノートについて詳しく知りたい方は、「終活は老後?の勘違い 家族が円満に相続するための2つの行動とは」を参考にしてみましょう。
相続に関する知識を深めておく
相続トラブルに発展しないためには、相続に関する知識を深めておくことも大切です。正しい知識を身に付ければ、相続トラブルだけでなく、相続税の対策もできます。
相続の知識を身に付けるためには「勉強会」がおすすめです。専門の講師が教えてくれるため、自分に合った対処方法を学ぶことが可能です。
当社では月に2度、勉強会を2つのグループに分けて開催しております。現在キャンペーンを開催しており、無料で参加することができます。これから相続について知識を身に付けたいという方は、ぜひ一度ご参加くださいませ。
まとめ
相続トラブルは遺産が少ない家庭でも発生します。仲の良い兄弟間であっても、いざ財産を目の当たりにすると、遺産トラブルにもなりかねないため、事前に対処しておかなければいけません。
相続トラブルを未然に防ぐためには、家族間での話し合いや、遺言書・エンディングノートの作成が挙げられます。
しかし、どのような手順で進めればよいかわからない方もいらっしゃることでしょう。当社では相続に関する知識を深めてもらうため、勉強会を開催しております。遺言書の作成方法やエンディングノートの作成サポート、家族間での話し合い手順などが勉強会で学べます。
生前中にしか対策できない相続だからこそ、正しい知識を身に付けるためにも、ぜひ一度ご参加くださいませ。